生理前の異常な眠気はなぜ起こる?
2024年 7月 25日
生理前になると、集中力が続かなかったり、いつもと同じ睡眠時間でも日中眠気を感じたりすることはありませんか。眠気は生理前〜生理中まで続き、あまりの眠さに仕事に支障がでる方もいます。生理前に強い眠気を感じる症状は、月経前症候群(PMS)の一つです。
異常な眠気は体のアラームです。リフレッシュや仮眠を取り入れ、体と上手く付き合いましょう。
異常な睡眠を感じるメカニズムの説明
生理前になると眠気を感じるのは体温・自律神経・GABA・セロトニンが影響し、睡眠の質が低下しているからといわれています。
原因1:生理前は体温が高くなるため
女性の体温は女性ホルモンの影響を受けやすく、月経の周期(月経・卵胞期・排卵期・黄体期)によって体温は変化します。排卵後から月経前の黄体期では女性ホルモンのうち「プロゲステロン」の分泌量が増加します。すると、体温が平熱の0.3℃〜0.6℃ほど上がるのです。
体温と睡眠は深い関係にあります。黄体期はプロゲステロンが基礎体温を上昇させるため、眠りの質が低下し、日中に眠気を感じやすくなります。
原因2:GABAが減少し緊張やストレスを感じやすくなるため
GABAはアミノ酸の一種で、人の脳内に存在します。緊張やストレスを緩和させ、脳の興奮を鎮静させる働きや、睡眠を促す働きがあるといわれています。
しかし、GABAは、プロゲステロンの影響を受けやすく、月経一週間前にプロゲステロンが増えると同時にGABAは減少します。一方で、プロゲステロンがGABA受容体に作用して鎮静や睡眠をうながす効果が高くなり、日中に眠気を誘うのです。
原因3:セロトニンの分泌量が減少するため
セロトニンとは、「しあわせホルモン」と呼ばれる脳内ホルモンです。脳がストレスを感じるとセロトニンを分泌し、自律神経のバランスを整えようとします。さらに、睡眠を促す「メラトニン」のもとになる物質で、質のよい睡眠には欠かせない物質です。
しかし、黄体期はセロトニンの分泌量も減少します。そのため、リラックスして深い睡眠がとれず、日中に眠気を感じやすくなります。
月経前過眠症について
月経前に異常な睡眠を感じたら「月経前過眠症(月経関連過眠症)」と呼ばれるPMSの一種かもしれません。月経前に眠れなくなる症状を「月経前不眠症」、日中に異常な眠気を感じる症状を「月経前過眠症」といいます。
一般的な月経前過眠症の場合、月経の約1週間前から日中に強い眠気を感じるようになり、月経が始まると眠気が緩和するでしょう。気分の落ち込みやイライラ、下腹部痛などほかのPMSの症状が強い方では日中に強い眠気を感じやすい傾向があります。
強い眠気が2日以上続き、この状態が1年以上継続していると月経前過眠症と診断されます。
月経前のつらい症状の改善に低用量ピルも!
月経前過眠症の治療は、まずは生活環境を整えることです。睡眠の記録をアプリや手帳につけ、ご自身の体調やスケジュール管理に活かしましょう。月経前は、日中に光を浴びるようにし、夜はカフェインを取りすぎないようにしましょう。お散歩やヨガ、ストレッチなどの適度な運動も良い眠りに効果があります。もし月経前の心身の症状が日常生活に支障をきたすほどの症状と判断されれば、月経前症候群や月経前不快気分障害として低用量ピルや女性ホルモン剤で排卵を抑える治療を行います。これは、排卵を抑制して女性ホルモンの変化をなくし、それによって症状を改善する治療法であり、ほかにも漢方や抗精神薬などを使うこともあります。
低用量ピルや女性ホルモン剤の使用には条件があり、妊娠を希望している方を含めて使えない方もいます。月経前に異常な眠気を感じるようであれば、一度主治医に相談してみましょう。
監修者プロフィール
柴田綾子 (Shibata Ayako) 先生
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医,周産期母体,胎児専門医
2011年群馬大学医学部を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。妊婦健診や婦人科外来診療をしながら女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動している。
著書:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)